次代への羅針盤
世界に飛び出してを
伊永隆史
産地偽装を科学的に暴く
最初の研究テーマは、博士号論文のテーマでもあったフローインジェクション分析法です。細いチューブ内を連続的に流れる液体に試料を導入し、反応させながらデータを取る分析法です。
その次のテーマは、マイクロチップ化学システムでした。ガラスやプラスチック基板に混合反応や分離精製などの化学操作を集積して、高度な分析や化学合成をマイクロチップとして実現する方法です。フローインジェクション分析法の細いチューブを、チップの中に落とし込んだようなものと言えます。
このとき、大型の研究費を国に申請して予算がついたことで、外部から資金を得て研究することの重要性が分かってきました。
3番目の研究テーマは、質量分析装置の開発でした。それまでは質量分析装置のユーザーでしかなかった私が、今度は開発する側に回ったわけです。微量なものでも分析できる小型の質量分析装置の開発で、成果を上げました。
4番目のテーマは、質量分析による安定同位体の研究です。あるとき、貝などは、採取した場所によって炭素や窒素、酸素の同位体の比率に違いのあることが分かりました。ただ最初は、この研究にどういうアプリケーションがあるか見えていませんでした。
ところがそう思っていた頃、牛肉の産地をごまかすなど食品の産地偽装問題が頻発しました。そこで私は食品の産地偽装を防止するためにこの技術が活用できると考えました。当時は食品の産地を科学的に判別する方法がなかったからです。そして生物や農産物に含まれる土壌由来の微量な金属と、自然現象によって変化する安定同位体に着目し、この2つの成分を見ることが産地判別の技術に結びつくことを提案したのです。この研究は現在、国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構が引き継いで行っています。