次代への羅針盤
世界に飛び出して
環境化学を専門としながら、多様な研究テーマに挑んできた伊永隆史氏。一方では社会にも積極的にコミットしてきた。「ずっと同じ研究室に閉じこもっていてはいけない。世界に飛び出さなければ視野が狭くなる」と、叱咤する。
Takashi Korenaga
伊永隆史
東京大学 環境安全研究センター 客員研究員
10年単位で研究テーマを変えた
今年の3月をもって、千葉科学大学を辞めました。副学長として大学運営にも携わっていましたが、学内で最年長の職員でしたから、もうそろそろ身を退こうとは以前から考えていました。その背中を後押ししたのは、一昨年読んだリンダ・グラットンの『ライフ・シフト』と『ワーク・シフト』でした。
いつまでも同じ仕事に固執していては、チェンジができにくくなる。ある程度区切りをつけ、新しい仕事に踏み出さないと人生100年時代を乗り切ることはできない。リンダ・グラットンのそういう主張に、私も共感したのです。
もっとも私はこの本を読むはるか前から、仕事も研究テーマも、次々にチェンジしてきました。
転職は実に7回しています。最初の転職は民間企業から大学への転職でしたが、それ以降はすべて大学から大学への転職です。大学から大学への転職は、研究が評価されなければなかなかできないことです。
大学教員になってちょうど40年。この間、私はほぼ10年単位で研究を見直し、テーマを変えてきました。10年も研究しているとテーマに研究者が集まってくるからということもありますが、10年間研究を続けていればそれなりの結果が出ます。そしてそれが社会的ニーズのある優れたテーマであれば、自分以外にもたくさんの研究者が後についてきているはずです。その中には優秀な研究者もいるでしょう。だからそのテーマの研究は後続の研究者たちにバトンタッチして、自分はまた別の新しいテーマにチャレンジしたほうがいい、というのが私の考え方なのです。