次代への羅針盤
自分の良さを伸ばせばいいのです
山本 尚
何をするにしても心を込めて
もちろん、今の日本に必要なのは、破壊的イノベーションです。ゲームチェンジが必要なのです。
私は、わが国の有機化学の分野で著名な先生方に、それぞれの研究室でとんがっている若い人を紹介していただき、毎年15名ほど大津のホテルに集まってもらう大津会議のお手伝いをしています。優秀で生意気な若い人がそこに来ると、自分よりすごい人間がすぐ横にいることに気がつきます。そしてそこで交流し、仲間意識を持ち、再びそれぞれの大学に戻っていきます。ただそれだけなのですが、この人たちの多くはその後も仲間意識を持ち、世界に出ていき、臆せず堂々と振る舞い、業績も上げています。
道元禅師の「而今(じこん)」」という言葉が好きです。過去もなく未来もない、ただ今があるのみ。今の刹那を生きるのだから、何をするにしても心を込めなさい。そういう意味の言葉です。
私は、生涯現役を標榜しています。まだまだやりたいことはたくさんあります。チャレンジもしていきたいと思っています。でも、年寄りが若い人を自分の鋳型に入れようとするのは罪悪です。だから自分のやり方を押し付けるようなことはしません。若い人は自分の良いところを伸ばしていけばいいのです。そして自由な思考で、広い視点で物事を考え、見るようにする。そうすると突然、視界が開けたかのように新しい景色が見えてくる瞬間がきっとあります。研究は面白いものです。チャレンジすることを忘れなければ、誰にでも成功するチャンスがあります。でも、自分の考えに凝り固まっていると、チャンスに気がつきにくくなってしまいます。チャンスを逃さないためにも、自由な思考と広い視点を大事にしてほしいものです。
自由な思考と広い視点で物事を考えるようにしていると、突然、視界が開けたかのように新しい景色が見えてくる。
山本 尚[やまもと・ひさし] 中部大学総合工学研究所長、分子性触媒研究センター長、教授 1943年、兵庫県出身。京都大学工学部工業化学科卒業。ハーバード大学化学科大学院博士課程修了。東レ基礎研究所に1年間勤務したのち、京都大学工学部助手。その後、ハワイ大学准教授、名古屋大学助教授・教授、シカゴ大学教授などを歴任し、2011年に中部大学教授に就任。
日本化学会会長の要職も務める。名古屋大学名誉教授。中学生のとき英語で書かれた有機化学の本を読み、高校生のときには道元の「正法眼蔵」を読破したという。
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