次代への羅針盤
自分の良さを伸ばせばいいのです
山本 尚
多くの人が二兎を追って失敗する
研究には、純正研究と応用研究の2種類があります。自分の興味あるテーマを追って純正研究をするか、少しでも社会の役に立つテーマで応用研究をするか、同じ人が両方の研究をすることはできないと私は考えています。だから早い段階で自分はどちらの研究が適しているのか、考えたほうがいいと思います。多くの人が二兎を追い、それで失敗してしまいます。
純正研究や応用研究の基盤となる基礎研究にも、うその基礎研究と本当の基礎研究があります。すでに確立されたテーマを勉強するのは、基礎研究とは言いません。それは末梢の学問です。誰もやっていない、手あかのついていない学問をするのが本当の基礎研究です。そういう基礎研究を大事にしなければいけないのですが、本当の基礎研究をしている人は少ないのではないでしょうか。 社会に影響を及ぼすのは応用研究がほとんどです。ただ、応用研究をするにはニーズに即した目標が必要です。末梢的なテーマで純正研究をしていて、たまたまどこかでプロダクトが出てくると、これは何かの役に立たないかと聞いてくる人がいますが、成功するのは、千に一つです。
ニーズとは、応用研究の出口ではなく、入り口です。ニーズとは何か、そこをもっと深く考えるべきです。ニーズとは、人間生活にうれしいものでなければいけないと思います。おいしいものを食べたら幸せな気分になる、きれいなものを見たらうれしくなる。人間の本性を満足させるそういうものがニーズです。
私自身はどうかといえば、最初の20~30年くらいはずっと好きなことをしてきました。純正研究を思い切りやらせていただきました。でも20年くらい前から、少しは世の中の役に立つこともしたいと思うようになりました。それで始めたのが触媒的ペプチドの研究です。