次代への羅針盤
最後までやり抜く強い意志で、高みを目指して欲しい
村井眞二
自らを情報の飢餓状態に追い込む
若い人は大学の3年生くらいまでは、ふらふらしているものです。しかし4年生になり研究室に入ると、「こんな世界があるんだ」と感動し、研究にのめり込みます。そういう点では今も昔も変わりません。若者は自分のすることに意義を見出したら、本気で取り組むようになるのです。
そういう若い研究者には、情報の飢餓状態に自分を追い込むことを勧めます。こんなことを知りたい、これが分かればこういうことができるはずだといろいろなテーマを持ち、情報に対して欲求不満な状態になっていると、雑誌でも論文でも、見落としていた情報がパッと目に入ってくるようになります。
もうひとつ、仮想ライバルを持つといい。嫉妬心が起きるほどいい論文を書く人がいたら、その人をライバルに想定する。そしてその人の仕事にずっと注目していれば、いい刺激になるし、自分の考えの軸ができる。私自身は海外の研究者を仮想ライバルにしていました。
今の若い研究者を見ていると、研究会とか飲み会で仲良くなった人と一緒に仕事をしようとする。しかしそれは逆だと思う。この仕事をしたのは誰だ、この論文を書いたのは誰だというように気になる人がいたら、その人に会いたくなる。話を聞きたくなる。それが本筋でしょう。
仲よしクラブ的な甘い人間関係からいい成果が出てくるとは思えません。
難しいテーマに取り組めば、そう簡単にうまくいかないのは当たり前。広く深く勉強しながら、これだけはものにしようという強い意志を持って、高みを目指して欲しいものです。
本当に新しいことは、それまでの常識の延長上にはない。
村井眞二[むらい・しんじ] 大阪大学名誉教授 奈良先端科学技術大学院大学特任 岩谷産業株式会社取締役(非常勤) 1938年生まれ。工学博士。大阪大学教授、工学部長を経て名誉教授。奈良先端科学技術大学院大学理事・副学長を経て名誉教授・特任教授。岩谷産業(株)中央研究所所長を経て取締役(非常勤)。日本化学会元会長。科学技術振興機構上席フェロー、特任フェローを歴任。日本化学会賞、有機合成化学協会特別賞、藤原賞を始め、日本学士院賞、朝日賞などを受賞。経済産業省、文部科学省関連の取り組み「元素戦略」の提案は、国の政策として具体化し、欧州や米国を始めとする世界の主要国で、グローバルに拡大している。
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