次代への羅針盤
最後までやり抜く強い意志で、高みを目指して欲しい
村井眞二
常識越えを狙う
新しいことの発見や発明があれば、サイエンスもテクノロジーも大きく広がっていくものです。
炭素と水素の結合を切るC-H活性化の研究も、そうした思いで取り組みました。C-Hの結合は有機物の基本構造であり、簡単には切れません。何をやってもうまくいかない日が続きました。しかしこれができればすごいという思いを研究室で共有しながら失敗を重ねても諦めず、ついにルテニウムという金属を使い、C-H活性化に成功したのです。
幸い、この研究は世界的に注目されました。しかし当時私の研究室にはこれと同じレベルの研究成果が他にも3つか4つありました。それらの研究は派手さがないためほとんど注目されませんでした。ところがノーベル化学賞の受賞者であるハーバード大学のイライアス・コーリー先生が注目すべき5本の論文を挙げたとき、実に2本が私の研究室の論文だったことがありました。またアメリカ化学会の機関誌も2週続けて私たちの2本の論文を掲載しました。これはうれしかったですね。