次代への羅針盤
研究者はもっと広く世界を見て欲しい
野依良治[後編]
何が正義なのか
科学技術や文明の発達は人間にさまざまな恩恵をもたらしましたが、一方では影の部分もあり、地球温暖化はその最たるものです。幸いにも昨年フランスで開かれたCOP21では「パリ協定」が採択され、途上国を含むすべての国・地域が温暖化対策に取り組む枠組みができました。
しかし海水面の上昇はすでに始まっていて、最終的にそれが80センチ程度になるのか5~6メートルになるのか分かりません。この傾向を止めることはおそらくもう不可能でしょう。そうであるならば、その他のさまざまな災害への対策も含め、私たちは早急に行動しなければいけません。そのとき政策とともに重要な役割を果たすのはもちろん科学技術です。
もとより科学技術は正義であるべきですが、今や、何が正義なのか曖昧になっています。先人たちが営々と善意でしてきたことが、結果として心ならずも災厄をもたらしたこともあります。人類の危機の可能性を示したのは科学者たちです。しかし、科学に対する悲観が高じて、反科学の方向に向かうことを恐れています。
そうした事態を招かないためにも、未来を担う若い研究者たちにはもっと広く世界や社会を見て欲しい。そして人類文明の存続のために力を揮って欲しいのです。ハリマ化成も松籟財団の助成活動などを通じて、志ある若い研究者の支援、育成に一層努力していただきたいと思います。
若い世代が力を発揮できる風土をつくることが、未来をつくることになるのです。
野依良治 [のより・りょうじ] 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター センター長 1938年、兵庫県出身。京都大学工学部卒業。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。名古屋大学教授、独立行政法人理化学研究所理事長などを経て、2015年6月より現職。触媒による不斉合成法を確立した業績により、2001年ノーベル化学賞を受賞。1986年には「プロスタグランジン類の合成」によって松籟科学技術振興財団の研究助成を受賞。
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