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次代への羅針盤

次代への羅針盤

研究者はもっと広く世界を見て欲しい

若い頃から、基礎研究をしながらも常に社会に目を向けていたという野依良治氏。今は第一線の研究活動の経験を踏まえながら、日本の科学技術のあり方についてさまざまな提言を発している。前号では科学技術創造立国日本のあるべき姿について語ったその野依氏が、今号では若い研究者に対して期待すること、求めるものなどを提起した。

Ryoji Noyori

野依良治[後編]

国立研究開発法人科学技術振興機構
研究開発戦略センター センター長

科学とは真理の追究である

 梶田隆章先生は、素粒子のニュートリノが質量を持つことを発見したことで昨年のノーベル物理学賞を受賞されました。ニュートリノは、宇宙の起源を解明するうえで非常に重要なものです。梶田先生の受賞を知り、多くの人がしばし物質の根源であるとか、自分たちの来し方に思いを馳せたのではないでしょうか。

 そして、人間がいかに小さな存在であるかということに思い至り、もう少し謙虚であるべきと考えた人もいたことでしょう。梶田先生の受賞には、人生観にかかわる文化的な意味もあるような気がします。

 科学を研究したいという若者がたくさんいます。若い人には、ぜひとも自らの価値観に基づいて「本当にやりたいこと」をやって欲しいと思います。大事なことは、受け身ではなく、本当に自分で考え、責任を持って実行することです。それを基本に既成概念を破り、新しい社会をつくることに挑戦して欲しいのです。

 しかし、科学がどういうものなのか、きちんと認識しなければいけません。科学とは「真理の追究」です。ゴーギャンの作品に「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」があります。この問いに真っ当に答えるのが本来の科学だと思っています。

 大学で純粋科学を研究する人は、狭い専門分野の自分の考えにこだわり過ぎる傾向があります。けれども今は「社会の中の科学」「社会のための科学」ということが問われており、より複眼的な思考が求められるようになっています。時代がどんどん変わっていくなかで、社会が何を科学に期待し求めているのかという視点を忘れてはいけません。それは決して経済効果だけを意味するのではありません。最近、若い研究者の一部に引きこもりのような傾向が見られることを心配しています。研究者はもっと広く社会や世界に目を向けて欲しいものです。

「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」(ゴーギャン 1897-1898年)

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