ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

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ナノセルロースの実用化で日本を資源大国に

磯貝 明

社会科学系も含めた異分野融合が必要

 ただ、私たちは生物の持っている機能をどうしたら活かせるかというところに重きを置いています。新しい機能開発とものづくりが基本にある工学系とはやや視点が違います。だからこそいろいろなレベルでの異分野融合が必要になります。今は社会科学系も含めていろいろな分野が協力しないと新しい文化や価値を生み出しにくくなっています。

 また新しい用途開発は、企業の専門家がそれぞれの視点で取り組む方がいいのではないかと考えています。大学が中心になるというのは私の能力を超えていますし、企業の方が思いもよらない多様な広がりと水平展開の可能性が高まるように思います。

 光触媒は実用化までに35年くらいかかりました。炭素繊維は飛行機に使われるようになるまで50年以上を要しました。大学の学術的な基礎研究から生まれた成果が社会に還元されるまでには、多くの時間がかかります。最近は大学の基礎研究にまで短期間での成果を求める風潮があります。また選択と集中ということで、次世代に成果の出るような長期的視点の基礎研究環境は、厳しくなる一方です。

 私たちの研究が、社会への還元という意味では大きな成果も出せずに、それでも続けてこられたのは、企業や国の機関などの支援があったからです。私自身、松籟財団の支援も受けて大変助かりました。選択と集中を否定するつもりはありませんが、過度な集中は、将来性のある研究の芽を摘んでしまう危険があると思います。

 研究で大切なことは、自分の直観を信じて継続することです。もちろん予算獲得のために自分の研究の意義を人に説明し理解していただく努力を怠ってはいけませんが、長期的視点の独創性のある研究を諦めずに継続し、修士論文や博士論文テーマのように、一定期間内で成果が求められる研究テーマとバランスをとることです。今は、一定期間内に成果が求められる場合が多く、基礎研究を進めておられる方々には困難な状況だと感じます。今回の私たちの受賞が、厳しい環境の中でチャレンジしている方たちを勇気づけるのであれば、これに勝る喜びはありません。

自分の直観を信じ、諦めずに研究を継続することです。

磯貝 明[いそがい・あきら] 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 1954年、静岡県出身。東京大学農学部卒業。農学博士。博士論文のタイトルは 「非水系溶剤を用いたセルロースの誘導体化」。東京大学農学部助手、東京大学大学院農学生命科学研究科助教授を経て、2003年から現職。日本ではマルクス・ヴァーレンベリ賞の認知度が低く、「東大でプレス向けの受賞発表をしたとき、マスコミは数社しか来なかった」と苦笑する。第15回松籟科学技術振興財団研究助成受賞、現評議員。

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