次代への羅針盤
ナノセルロースの実用化で日本を資源大国に
磯貝 明
ナノセルロースの実用化に道を開く
私たちはそこにTEMPO触媒酸化という方法を用いることにより、解繊に必要なエネルギー量を従来の100分の1程度に減らすことができることを発見しました。これによりナノセルロースの実用化に向けた歩みが大きく前進したと評価されたのです。
私は学生時代、有機溶剤を使ってセルロースを溶かす実験をしていましたが、これでいいのかという直観的な思いがありました。そして米国の大学院大学である、The Institute of Paper Chemistry化学科の博士研究員になったときから、有機溶剤を使わず水系で、短時間かつ効率的にセルロースに新しい機能を付与できる製紙プロセスのメカニズム解析について考えるようになりました。その思いは東大に帰ってきてからも持ち続け、関連の基礎研究を進めていました。
その間の論文検索によって、オランダのグループがTEMPO触媒酸化の方法をデンプンに適用した研究例を知りました。水系で、常温常圧でデンプンを改質できるという発表でした。この手法をセルロースにも適用できるのではないかと思い、修士課程の大学院生とともに、セルロースのTEMPO触媒酸化の研究を始めるようになったのです。1995年のことです。
「紙の研究に関係のない、この研究に意味があるのか」。周囲からはそんな声も聞こえてきました。それでも研究を続け、基礎的な知見を積み上げてはいましたが、注目されるような大きな成果は得られませんでした。