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次代への羅針盤

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ナノセルロースの実用化で日本を資源大国に

今年、森林のノーベル賞ともいわれるマルクス・ヴァーレンベリ賞を受賞した
磯貝明氏。受賞理由となったナノフィブリル化セルロースの製造方法開発は、
セルロースナノファイバーという新材料の実用化に向けた歩みを大きく前進させた。
研究をスタートさせたのは1995年。この間、ほぼ一貫して「低空飛行だった」と言う。
だが、自らの直観を信じ、諦めずに粘り強く研究を続けたことが、受賞につながった。
本格的な実用化までにはまだ越えなくてはならないハードルがいくつもある。
だからこそ社会科学系まで含めた異分野融合の取り組みが重要であり、
企業がそれぞれの得意分野で新たな用途を開発することが必要だと指摘する。

Akira Isogai

磯貝 明

東京大学大学院農学生命科学研究科教授

重さは鉄の5分の1、強度は5倍

 昨年、産業技術総合研究所のコンソーシアムとして「ナノセルロースフォーラム」が設立されました。そのフォーラムの調査の一環で今年の2月、スウェーデンを訪れたときのことです。翌日には帰国の途に就くというタイミングで突然、王立工科大学の教授にこの後ちょっと寄って欲しいと言われました。私はすでに予定が決まっていましたので、丁重にお断りしました。ところがどうしても来て欲しいというので、予定をキャンセルして教授のオフィスにいきました。そこで財団の方と初めてお会いし、「今年のマルクス・ヴァーレンベリ賞はあなた方に授与される」と伝えられたのです。

 マルクス・ヴァーレンベリ賞というのは、森林や木材に関する分野の基礎的な科学研究に贈られる賞で、「森林のノーベル賞」ともいわれています。もっとも、それまでは私には縁のない賞という認識でした。

 アジアでは初めてという今回の受賞は、私とフランス・グルノーブルの植物高分子研究所の西山義春博士、東大の齋藤継之准教授の共同研究に贈られたものです。

 ナノセルロースは、植物の繊維を高度にナノ化した新しい素材です。

 植物由来であるため環境への負荷が少なく、リサイクルも容易で、繊維として取り出すと鉄の5分の1と軽く5倍の強度を持つなど、多くの優れた特性を有しています。

 ただ、植物の繊維を取り出してナノレベルに解繊するには従来、大きなエネルギーを必要としました。そのためナノセルロースは優れた特性を持ちながら、実用化には多くの課題がありました。

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