ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

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ナノセルロースの実用化で日本を資源大国に

磯貝 明

循環型社会への転換を日本がリード

 今回共にマルクス・ヴァーレンベリ賞を受賞した齋藤さんが学部の4年生として研究室メンバーに参加し、彼がこのテーマを選択して研究の継続が可能になりました。その後、齋藤さんはやはりマルクス・ヴァーレンベリ賞を受賞した西山先生のいる植物高分子研究所に10ヵ月ほど留学しました。そして西山先生が持つナノ分散技術や齋藤さんが修得した電子顕微鏡の技術などを組み合わせて、ついにTEMPO触媒酸化法でセルロースを低エネルギーで解繊できる技術を確立したのです。2006年、その研究成果をまとめた論文がアメリカ化学会の雑誌に掲載され、世界的に広く知られるようになりました。

 木材パルプや綿などの天然セルロース繊維にTEMPO触媒酸化を適用した後、ミキサーなどによる機械的な分散処理を加えると、幅約3ナノメートルで長さ数ミクロンの単位にまで分離分散することができます。日本製紙はこの技術を用いて2013年から、セルロースナノファイバーの実証生産設備を運転しています。

 セルロースナノファイバーについては昨年閣議決定された「日本再興戦略」でもマテリアル利用の促進に向けた取り組みを推進すると明記されています。経済産業省、農林水産省、環境省、文部科学省などが、省庁の壁を越えて推進するための連絡会議も発足しています。製紙産業が盛んな静岡県は、産官学でセルロースナノファイバーを軸にした産業育成を目指す組織を立ち上げています。

 TEMPO触媒酸化の研究を始めてから約20年、最初の関連論文を発表してからも9年が経過しています。企業の方々の積極的なご支援もあって、よくここまで到達した、という思いがあります。日本は国土の6割が森林です。その森林が新しい材料の資源になれば資源立国になる可能性があります。化石燃料に依存する社会から持続可能な循環型社会への転換が求められているときに、新しい技術と社会システムで、日本が世界をリードしていくモデルを提示できるのではないかという期待も高まっています。

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