ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

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理科教育への支援が日本のサイエンスのレベルを上げる

鈴木 章

幸運な発見に出会うチャンスは誰にでもある

 新しい有機化合物をつくる反応で、最も一般的なのは、有機金属化合物と有機のハロゲン化合物を、遷移金属を触媒として反応させる方法です。しかし、有機金属化合物は不安定で、水があるとすぐ分解してしまいます。そこで水に安定な金属類似化合物の有機ホウ素化合物とハロゲン化合物を、遷移金属と塩基を加えて反応させ、炭素-炭素結合を実現したのが、鈴木・宮浦クロスカップリング反応です。

 私がこの反応を見つけることができたのは、偶然の出会いの部分もあったと思います。2冊の本との出会いも、偶然に近いものです。そして研究者なら誰でも幸運な発見に出会うチャンスはあるはずです。

 しかし、そのチャンスを生かすには、わずかな光をも見逃さない注意力と、とにかく精進努力し続けることが必要です。そして何より大切なのは独創的な研究をすることです。

 サイエンスの研究というのは、失敗の連続です。95%以上が失敗で、成功するのはごくまれなことです。でも、その研究が面白ければ、何度失敗しても続けられるものです。私自身、若いころは研究が面白くて仕方ありませんでした。もうやめようなどと思ったことはただの一度もありません。

 日本のサイエンスがさらに進歩し、多くの優れた研究者が新しい時代をつくっていけるように、私はこれからもささやかではありますが、できる範囲で貢献していきたいと思っています。

研究には、わずかな光をも見逃さない注意力、精進努力し続けること、そして独創性の3つが必要です。

鈴木 章[すずき・あきら] 北海道大学名誉教授 1930年、北海道勇払郡鵡川村出身。北海道大学理学部化学科卒業。北大入学時には、家庭の経済事情のため1年間休学し、代用教員を務めた。同大大学院理学研究科博士課程修了。同大理学部助手、助教授を経て、1973年から同大工学部応用化学科教授に就任。その間の1963年7月から65年3月までは、米パデュー大学に博士研究員として留学。1994年、北海道大学教授を退官し、名誉教授に。その後、岡山理科大学教授、倉敷芸術科学大学教授、パデュー大学招聘教授、台湾中央科学院および国立台湾大学招聘教授などを歴任。2004年、日本学士院賞、2005年、瑞宝中綬章、2010年、文化功労者・文化勲章などを受賞。2010年、ノーベル化学賞受賞。

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