ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

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理科教育への支援が日本のサイエンスのレベルを上げる

鈴木 章

今でも忘れられないパイロシン合成の感激

 修士課程のときのことです。蚊取り線香の煙の成分であるパイロシンを合成する研究テーマを、研究室の先生から与えられました。ところが合成できているはずなのに、なかなか結晶体が得られませんでした。研究の成果は日本化学会の年会で発表することになっていたので、私は徹夜で蒸留をしました。そして学会に出席するために上京する1日前の早朝、ようやくほんのわずかな量が結晶化したのです。私はこのときの感激が今でも忘れられません。正直に言うと、ノーベル化学賞を受賞したクロスカップリング反応を発見したときよりもこのときの方がうれしかったくらいです。このときの感激が、私を有機合成化学研究の道に進めた人生の出発点となったのでした。

 もう1冊、私の人生を変えた本があります。それは、恩師であるブラウン先生の著書『Hydroboration』です。私はこの本を読んで有機ホウ素化合物をつくるハイドロボレーションという反応に魅かれ、有機ホウ素化合物を用いる有機合成に興味を持つようになったのです。この本を読まなければその後、ブラウン先生のもとに留学することもなかったでしょうし、クロスカップリング反応を発見することもなかったかもしれません。

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