次代への羅針盤
理科教育への支援が日本のサイエンスのレベルを上げる
鈴木 章
青天の霹靂だったノーベル化学賞の受賞
人的なサポートと経済的なサポートの両方ができる企業の役割も大事です。実は私は60歳くらいのとき、ハリマ化成の松籟科学技術振興財団から助成金をいただいたことがあります。ハリマ化成には、ノーベル賞を受賞する前から同窓生が研究所長を務めていたこともあり、加古川の研究所を訪問させていただいたことがありました。
ハリマ化成はケミカル領域の企業ですが、今後もぜひ、ケミカルに限定せずに広い分野でのサポートを期待します。日本のサイエンス全体のレベルアップのために、それはとても重要なことなのです。
そういう観点でいうと、最近喧伝される若い人の理科離れはとても心配しています。サイエンスのレベルを上げるためには、子どもたちが理科に興味を持つこと。それが第一条件なのです。
日本人研究者がノーベル賞を受賞することで、サイエンスに興味を持つようになる子どももいるかもしれません。その意味でも私は、日本人がノーベル賞を受賞すると、とてもうれしく感じます。
もっとも私自身は、自分がノーベル賞を受賞するとは思ってもいませんでした。米国留学時代の恩師であるパデュー大学のハーバート・ブラウン先生はご自身がノーベル賞を受賞されたあとですが、ノーベル委員会に私を推薦してくださいました。けれども先生がご存命のうちには私は受賞しませんでしたし、私自身、ノーベル賞をいただけるほどサイエンスに大きな貢献をしたとは思っていませんでした。ですから2010年の10月の初旬、ストックホルムのノーベル委員会から突然、受賞を告げる電話がかかってきたときは青天の霹靂でした。そもそも受賞の連絡が電話だとは思ってもいませんでしたから、その意味でも本当に驚きました。