One Hour Interview
植物と昆虫の攻防を分子レベルで解き明かす
新屋友規
植物由来の天然接着剤ができる可能性も
そもそも虫はなぜ、植物に認識されるような物質を吐き戻すのでしょうか。
1つの可能性として、そうした物質が虫の生存に重要な役割を担っているのかもしれません。マツノキハバチの幼虫は、松やにからテルペンを集積しています。彼らは天敵の虫から攻撃されたときに、テルペンを忌避剤として吐き戻し、身を守っているという話があります。吐き戻し液に多く含まれている物質は、もしかしたら虫が見つけた植物由来の有用な物質なのかもしれません。
ではペクチンも、クサシロキヨトウにとって重要な役割があるかもしれないのですね。
蛾の一種であるクサシロキヨトウは蛹(さなぎ)になるとき、蛹室と呼ばれる部屋をつくるのですが、そのときに粘着性のある液を吐き出して、接着剤のように使います。その接着成分として、ペクチンなどの粘性多糖を利用しているのではないかと考えています。そうすると次に、この虫が餌とした植物からつくる接着剤はどんなものなのだろうという興味が湧いてきました。
それで松籟科学技術振興財団の研究助成に応募されたのですね。
助成を受けて見えてきたのは、クサシロキヨトウは粘性多糖を腹に溜め込んでいそうだということ。接着力についても共同研究者たちと一緒に測定を続けており、何か面白い特性が見えてこないか、楽しみに研究を進めています。