One Hour Interview
植物と昆虫の攻防を分子レベルで解き明かす
新屋友規
鍵を握る虫の腸内細菌
吐き戻し液というのは、虫の唾液と同じものですか。
唾液とほぼ同じ成分も含んでいると考えられていますが、腸の中から出てきた成分も含まれているようです。吐き戻し液の成分解析は、これからも続けていく必要があります。この研究のために虫を何百匹も育てて吐き戻し液を採取し、さまざまな角度から解析をしています。
これまでの成果としてはどのようなものがありますか。
虫が稲を食べるときに、稲の細胞壁にあるペクチンという多糖を消化します。このときにできた消化断片が吐き戻し液の中に含まれているのですが、稲がこの断片の1つを認識し、「いま虫に攻撃されている」と防御反応することを最近見つけました。稲が認識するペクチン消化断片が虫の中でどのように分解され、どうやって吐き戻し液の中に入るのか、今はそこを探っています。ところが虫は、稲に認識される断片を産生するような消化酵素を持っていないようです。でも、さらに調べたら、虫の腸内細菌がつくる酵素がこれを切り出していることがわかってきました。
お話を伺っていると、虫に共生している腸内細菌が虫を裏切っているようにも感じます。
虫の腸内細菌が、植物の防御応答の誘導に影響していることはよく知られていたのですが、このような形で影響する可能性が示せたのは面白いと思っています。
虫にかじられたことを認識したら、匂いを出す以外にも植物は何か反応を起こすのですか。
かじられたことを認識すると防御シグナル伝達が活性化され、昆虫のお腹の中のプロテアーゼを阻害するようなタンパク質をつくることがあります。また、虫に効くような抗昆虫活性物質をつくり出して身を守ります。それによって虫の成長を抑えたり、それ以上葉を食べるのをやめさせたりすることが考えられます。こういった防御システムがある程度、効いていることは間違いなさそうです。