ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

植物と昆虫の攻防を分子レベルで解き明かす

新屋友規

匂いで害虫の天敵に助けを求める

植物側には、どういう対抗手段があるのでしょうか。

 虫を寄せつけないようにする抗昆虫活性物質をつくることがあります。たばこのニコチンはその典型で、防虫菊もそういった殺虫性のある物質を持っているといわれます。また、葉の表面に硬いとげのようなものがあり、虫がこの葉を食べるとお腹にとげが刺さるようになっている植物もあります。稲の一部もこれに該当します。

 面白いのが、間接的に虫を殺してしまうケースです。稲は虫が葉をかじると匂いを出して寄生蜂などの天敵昆虫を呼び寄せます。これが、虫の体内に卵を産みつけるのです。やがて卵が孵化(ふか)し、虫の腹を食い破って出てきます。稲の側からすると、匂いを使ってSOS信号を出しているようなもので、植物もなかなかうまいことをしているなと思います。私たちの研究室では、こういった一連の防御プロセスを分子レベルで研究しています。

匂いが出るということは、植物は虫にかじられていることを認識しているのでしょうか。

 そのように考えられます。では、どうやってかじられていることを認識しているのか。その1つが、傷です。傷ができることで、かじられていることを認識するのです。しかし、こういう研究は何十年も前から行われており、傷だけでは説明しきれない部分があります。そこで重要な役割を果たしているのが、虫が葉をかじるときに体内から出す吐き戻し液です。虫の吐き戻し液の中には、虫由来分子や葉の分解物、その虫の腸内細菌とか、いろいろな成分が含まれています。それが傷口につき、植物が認識することでかじられたことがわかるのではないかと考えられます。虫の吐き戻し液を採取し、植物に傷をつけ、そこに吐き戻し液を塗ったりする実験で、そういうことがわかってきました。

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