One Hour Interview
酵素で解き明かす生合成のメカニズム
森 貴裕
研究に必要な心構えは「タンパク質至上主義」
先生はどのくらいの時間、作業をされているのですか。
夜の8時か9時頃までは研究室にいますね。授業や会議以外は、ほぼ研究室に籠っている状態です。自分で実験もしますし、学生とディスカッションもします。阿部先生の研究室では毎週土曜日、研究報告会があるので、休みは日曜くらい。研究報告会は学生同士のディスカッションの場にもなっていますし、ほかの人の考え方や発想を知ることは学生にとってとてもいい勉強になっていると思います。
こういう研究をしている人は、世界にどれくらいいるのでしょうか。
最近、結構増えてきています。遺伝子解析技術やシーケンサーの技術が進化してきて、遺伝子を読めば生合成がわかるようになってきたことが影響しているのだと思います。以前は、この分野の研究で日本は先頭のほうを走っていたのですが、最近は中国の研究が進んでおり、日本は劣勢です。僕は危機感を持っています。
先ほど挙げた3つの目標を達成するのが山頂とすれば、今は何合目くらいですか。
まだ3合目か4合目くらいではないでしょうか。4合目にはまだ行っていないかもしれません。
足りないのはどういった部分ですか。
より効率的な生産方法の構築が、まだまだです。研究で試してはいますが、効率はせいぜい2倍とか3倍くらいにしかなっていません。工業生産のレベルまで進めることを考えたら、2倍3倍では全然足りません。
少なくとも数十倍は必要ですか。
そうですね。1リットルでグラムスケールの化合物がつくれるくらいじゃないとだめだという話は、よく聞きます。
山頂にたどり着くには、あとどれくらいかかりそうですか。
15年くらいでたどり着きたいと思っています。社会実装まで行くには、やはりそれくらいかかるでしょう。
この研究をしていてよかったと思うのは、どういうときですか。
結晶を見るのが好きなので、結晶の構造が解けたときはうれしいですね。その酵素がどうしてできたのかがわかり、今まで解かれてきた結晶構造とは違う形をしていたりすると、非常にうれしいです。
この分野の研究者に必要なスキルや資質は何でしょうか。
根気強さ。それと、酵素をはじめとしたタンパク質をいかにもてなせるか。タンパク質至上主義です。赤ん坊をあやすように、大切に扱わなければなりません。
森 貴裕[もり・たかひろ] 1988年、静岡県生まれ。静岡県立大学薬学部卒業。東京大学大学院薬学系研究科博士課程中退。薬科学博士。同研究科助教、チューリッヒ工科大学博士研究員、JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ研究者(兼任)、JST 創発的研究⽀援事業研究者(兼任)を経て、2023年4月より現職。2023年4月、科学技術分野の⽂部科学大⾂表彰若手科学者賞、同年10月、第65回天然有機化合物討論会奨励賞受賞。趣味は水泳。日本酒愛飲家。休日は1歳になったばかりの長男と遊んで過ごす。
[第38回松籟科学技術振興財団研究助成受賞〕
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