One Hour Interview
酵素で解き明かす生合成のメカニズム
森 貴裕
新旧の技術の組み合わせで酵素の結晶構造を解析
現在は、どのようなことを進められているのでしょうか。
これまでのX線による結晶構造解析技術に、クライオ電子顕微鏡という2017年にノーベル化学賞を受賞した新しい技術による解析を組み合わせ、酵素の結晶構造を解き明かすことに取り組んでいます。
研究室でどういう作業をされているのか、ちょっとイメージがつかめないのですが。
酵素の機能解析だと、試験管内で酵素反応をかける作業になるので、座りながらピペットを動かす作業がメインになりますね。
X線による構造解析では、まず酵素を結晶化し、それをつくばにある高エネルギー加速器研究機構や兵庫県のSPring-8に送り、出てきたX線解析の結果を解析して構造を見ます。結晶は0.1~0.2ミリくらいの大きさなので、肉眼ではほとんど見えません。だから顕微鏡をのぞきながら、先端に輪がついた器具を使って結晶を拾います。いうなれば金魚すくいのような感じです。
研究で特に難しいのはどういうところですか。
生合成のメカニズムを知るためには酵素の構造の理解が欠かせませんが、構造の解析だけでは化学反応の仕組みは解明できません。そこで例えば、酵素が働きかける対象である基質に異なるものを用いて、反応がどう変化するかといった研究もしています。しかし、どういう基質を使えば反応がより詳細に見られるのか、そこを探るのがなかなか難しいですね。
また、酵素の結晶化がうまくいかず、結晶が出てこないことが時々あります。
どうして出てこないのでしょうか。
原因はいろいろあります。酵素は複雑な構造のタンパク質で、不安定です。ちょっと温度が上がるだけで死んでしまうこともあります。温度管理をしっかりしたり、いろいろバッファーの条件を変えたりして改善もしていますが、ブレークスルーというようなことはないですね。地味な作業です。