One Hour Interview
今、見えないものを見えるようにしたい
馬越貴之
顕微鏡は縁の下の力持ち
世界最高速度を実現され、資料にはご自身のことを「国内では独壇場」と書かれています。
独壇場はちょっといい過ぎでした(苦笑)。でも私は、学生のときに先端増強超解像ラマン分光技術の開発グループに属し、ポスドクで高速原子間力顕微鏡の開発にも携わりました。超解像ラマンを研究している人はたくさんいますし、高速原子間力顕微鏡の研究をしている先生もいます。しかしその両方の研究をしている人はおそらく世界でもほとんどいないはずです。つまりこの両方の技術を融合させることができるのは、私しかいないということです。そこは私の大きなアドバンテージだと思います。
先生の開発した技術で微生物などを生きた状態で観察できるようになることには、どのような意義があるとお考えですか。
例えば、生きている生物の細胞膜上で膜タンパクがどうなっているか、誰もまだナノレベルで見たことがありません。誰も見たことのないものを見てみたいという思いがまずあります。研究者としての純粋な思いかもしれませんが、それで生命原理がわかれば学術的にはとても大きな意義があるでしょう。細胞膜の表面には受容体があります。そこは薬が最初にアタックするところです。ですからそこの実際の動きやメカニズムが解明できれば、創薬や医学の研究にも役立つ成果が得られるはずです。顕微鏡はサイエンスの縁の下の力持ちのような役割を担っています。いろいろなところで役に立つ技術ですよ。
生きた状態の微生物の表面を、ナノレベルで高分解能で見られるようになるにはあとどれくらいかかりますか。
装置自体はもうおおむね出来上がっています。ソフトもつくっています。さらに一段高速化するにはいくつか課題もありますが、2年以内には実現させたいです。