One Hour Interview
社会実装を目指し機能性色素を創出
大山陽介
アンテナを張って嗅覚を養う
新しい機能性色素はどういう方法で創出するのでしょうか。
世の中にない骨格でつくるということを前提に、まず私がデザインして「こんなものをつくりたい」と学生に伝えて合成方法を指示します。でもたいていはうまくいきません。なかなかうまくいかないと自分でいろいろと調べる学生もいます。私はディスカッションを重視していて、学生とはよく話し合いますが、そのあとしばらくは放っておきます。それは「学生自身からもアイデアが出るように」と思っているためです。
それは研究のためであると同時に教育のためでもあるということですか。
そうですね。あとは、私一人のアイデアでは限られていると思うからです。学生は時々とんでもなく面白いアイデアを出してくるときがあります。実際は100回に1回くらいですが、それを見逃さないようにすることが大事だと思っています。
見逃さないようにするコツはあるのでしょうか。
嗅覚が大事だと思っています。そして嗅覚は養うことができるとも思っています。いろいろなところにアンテナを張り、自分とは異なる研究分野の情報も知っておく。そうすると、これは面白そうだと鼻が利くようになってきます。
先生はどんなところにアンテナを張っているのですか。
美術館に行って絵や彫刻を見て、分子のイメージを考えたりすることもあります。化学とはまったく関係ないものにも関心を持ち、化学的な視点で見ることもあります。あるときは、水を見分けたいと思ったことがきっかけで、ある色素を開発できたこともありました。有機溶媒をはじめとして、液体には無色透明なものが多いですよね。だから複数の液体があったとき、どれが水なのか見ただけではわかりません。どうすればわかるようになるだろうと考えて、水だけに反応する色素を開発したらいいのでは、というアイデアから生まれました。
蛍光性水センサーのことですね。それは社会実装されるとしたらどんな用途が考えられますか。
くしゃみをしたときに出る飛沫は、約90%が水分です。だからこの水センサーをテーブルや壁に塗っておけば、ブラックライトを当てると、くしゃみの飛沫がどこに飛んだか確実にわかり、そこだけ集中的に除菌することができるようになります。すでに、フィルム化することで水が当たった瞬間に光り、繰り返し使えるいいものがあります。例えば、紙おむつにこの色素を練り込んでおけば、尿が出ているかを外から見ただけで判断できるようになります。建築物やトンネルの壁に塗っておけば、水漏れの位置が正確にわかるようになるでしょう。