One Hour Interview
社会実装を目指し機能性色素を創出
大山陽介
偶然発見したものも
研究室のホームページには「新しい機能性色素を創出するのがミッション」と記されています。これまでどんな機能性色素を創出されてきましたか。
松籟財団の助成をいただいたときの研究テーマだったメカノフルオロクロミック色素は私が開発した機能性色素です。メカノは機械的な刺激、フルオロは蛍光、クロミックは色が変わるという意味です。ちょっとした力でこすると、蛍光発光色の色が変わります。一定の温度で加熱すると元の色に戻るので、何度でも繰り返し使うことができます。この機能を利用すると、例えばペンのようなもので表面をこすればそこだけ色が変化するので、文字や絵を描くことができます。そのあと熱をかければ元の色に戻りますから、書き込み消去型のディスプレイなどに使えるかもしれません。元の色をゼロとし、刺激を与えて変わった色を1とすれば、デジタル信号としての用途でも使える可能性があります。でも実はこれ、偶然見つけたものなんです。
いつ頃のことですか。
2005年にこの大学に赴任したときのことです。ある学生がよく光る色素を合成して純度を上げ、きれいな結晶を作成しました。ところがその結晶を薬さじで集めて瓶に移そうとしたとき、薬さじが当たったところだけ色が変わったんです。その学生は有機化学の知識があまりなかったので、化合物が壊れたと思ってもう1回つくりなおすと私にいいました。でも、その程度のことで炭素-炭素結合は切れたりしませんから、これはクロミック現象だと考えて熱をかけてみたら、元の色に戻ったんですよ。それでなぜそういう現象が起きるのか調べ、機械的な刺激を与えるときれいに並んでいる結晶がアモルファス(無秩序)状態になることがわかりました。しかも熱をかけると分子の配列が変わって元の色に戻る。それで分子の双極子モーメントに一定の値を持たせてやれば同じ現象が発現することを突き止めたんです。
その学生さんのミス(?)から新しい機能性色素として発表するまで、どれくらいの時間がかかりましたか。
その頃は毎日夜中の2時、3時まで研究していましたが、それでも1年ちょっとはかかりました。