One Hour Interview
100%を超える価値の創造を目指して
波多野 学
1つ上げた不斉触媒の次元
これは日本初ですか。
日本初でもあり、世界初でもあります。
この反応を開発した意義についてはどうお考えですか。
従来からある触媒を使うのであれば、従来からあるものしかつくることができません。従来できなかったものをつくろうとすれば、どうしても新しい触媒が必要になります。そうした新しい触媒をつくろうとすれば、これまでの常識を覆すような仕組みを取り入れないとできません。私たちが開発したこの触媒は、これまでできなかった立体化合物を主生成物としてつくることができます。酵素は、目的物の立体環境が化学的に不利な場合であっても、キャビティの中でしっかりとつくり上げることができる。それは酵素にしかできないことでしたが、私たちは酵素と同じような機能を持った触媒を開発し、本来つくれないようなものをつくり出すことに成功しました。これは有機化学に新しい選択性をもたらした、そんな意義があると考えています。これがすぐ何の役に立つかはわかりません。しかしノウハウを変えると新しい分子骨格ができることを提言できたという意味では、大きな進歩だと思っています。
有機合成化学の進歩に貢献されたのですね。
触媒反応という分野で、不斉触媒の次元を1つ上げたインパクトのある仕事として評価いただけたと思います。
事前にいただいた資料では高効率バイオディーゼル製造法の開発も研究されているようですね。
私の研究対象は、大きく分けると、エステル合成と不斉触媒反応開発の2つです。バイオディーゼルの開発はエステル合成の分野に入ります。
2つのうちどちらか1つを選ぶとしたら?
難しい質問ですね。正直選べません(苦笑)。どちらの研究もしたいし、どちらの研究も酸と塩基の触媒設計というところでつながっていますから面白いのです。もちろんアウトプットとしてはそれぞれ違うものになります。不斉触媒反応開発は薬学に通じるようなこともできますし、エステル合成は医薬品、化粧品、香料、アクリル樹脂、ポリエステルに至るまで、人類の生活に不可欠なエステルをつくり出します。