One Hour Interview
100%を超える価値の創造を目指して
メタルフリーの触媒開発で大きな実績を上げた波多野学さん。
しかしそこにたどり着くまでには長い年月を要したのだった。
波多野 学
神戸薬科大学
薬学部生命有機化学研究室
教授
エステル合成はまだ発展途上
昨年、名古屋大学からこちらへ転じてこられましたが、もう落ち着かれましたか。
昨年1年間は単身赴任でした。この春にようやく家族が来たので少しは落ち着きましたが、研究のほうはまだまだという感じです。ちょうど新型コロナウイルス感染症の時期と重なったために、研究のスタートがだいぶ遅れました。大学が閉鎖され、あの頃はリモートも今のようにはできませんでした。学生が登校できるようになったのは夏頃からですよ。全員が一斉に集まると密になるので、今も2班に分けています。新しい研究テーマ、研究の芽というのは連続して研究していないと出にくいものですが、新型コロナの影響で研究も途切れ途切れになってしまいました。それがつらいところですね。普段の半分の戦力でも倍の時間をかければ結果が出るかと言うとそんなことはなく、3倍も4倍も時間がかかるのが実情です。
こちらは薬科大学ですが、先生はどのような研究をされていらっしゃるのですか。
東京工業大学の学生のときから触媒を使った反応開発をずっと研究しています。学生のときは金属触媒を使い、名古屋大学に移ってからは有機触媒も使うようになりました。有機物だけで構成された分子を使って反応を制御する研究です。
触媒そのものも開発されているのですか。
しています。特にエステル合成に関して言うと、とても古くから研究されてきた反応で、もうやりつくされている感もあり、いまさら新しいことは出てこないだろうと言われています。しかしGSC(グリーン・サステイナブル・ケミストリー)の観点から研究すると、いまだ発展途上の研究分野であり、現在は低コストで安定した、持続的に供給可能な環境低負荷型合成法の開発が急務だと言えます。実際、まだ実現していない組み合わせもありますし、必ずしも新しい触媒を開発しなくても、すでにほかで開発されていた触媒をこちらに持ってくるやり方もあり、それがヒットすることもあります。そこがエステル合成の面白いところだと思っています。