One Hour Interview
100%を超える価値の創造を目指して
波多野 学
7~8年かけて超分子にたどり着く
うまくいかなかった原因は?
特に不斉触媒反応の仕事では、触媒に手を加えすぎていたのかもしれませんね。有機化学者ですから自分の思ったとおりに触媒をデザインすることはできるんです。でも、綿密にデザインしすぎると構造が固定され、動きが出にくい。反応中に触媒や基質は実はとてもフレキシブルに動くものなんです。酵素もそうで、酵素のキャビティの中に基質を取り込んで化学反応を触媒します。基質が入るときはキャビティが開いていないといけないし、中に入ってきたときはしっかり閉じないといけないわけです。ところが最初からがっちりした構造をつくってしまうと基質が中に入らないし、入ったら出ていけない。とても反応性の悪い触媒になってしまうんですね。そこで私たちが考えたのは、自由に動く仕組みを取り入れることでした。
それを実現するにはどのような気づきがあったのでしょうか。
石原研究室では酸・塩基というのが大きなテーマの1つでした。酸と塩基というのはプラスとマイナスのような関係で、お互い引き合ってくっついたり離れたりします。その酸と塩基を配位結合という形で、必要なときにはくっつき、必要ないときは離れるという、自由な脱着ができるフレキシブルな結合様式で触媒分子設計に取り入れると、触媒分子が自由に動くことを見つけたんです。例えば、キラルビナフトールという化合物を主触媒に、さらにもう2種類の別の化合物を混ぜると、そういう機能を持つ触媒が簡単にできます。私たちはこれをキラル超分子触媒と呼んでいますが、そこにたどり着くまでに7~8年かかりました。
こういう研究で7~8年かかるというのはよくあることですか。
いや、ちょっと長いと思います。
途中で諦めようと思ったりはしませんでしたか。
ずっと思っていました(笑)。でも、生体を模したこういう反応を開発できることを知ってもらいたいという思いがずっとありました。それに石原先生の寛容さもありました。全然結果が出ないときも見守ってくださっていましたから。