One Hour Interview
肺高血圧症の治療薬開発へ
山村寿男、山村 彩
松やに由来成分からのアプローチも
ここまででいちばん大変だったことは?
それがあまりないんですよ(苦笑)。大学での研究と教育が性に合っているんですかね。本当に楽しいです。
それは何よりですね。松籟財団の助成を受けた松やに由来成分の研究についても少しご説明いただけますか。
これは妻の大学院時代の研究ですが、昔から松の実は血圧にいいと言われていますね。実際、15年くらい前、この研究室の前任の教授(僕と妻の師匠です)が松やに成分の研究をされていたんです。高血圧症は血管の収縮が要因になりますが、松やにの成分がイオンチャネルに作用して血管を弛緩させる効果があるのではないかと研究されていたんですね。そのことを思い出して、松やにの成分がイオンチャネルに作用して、PAHの原因となる肺血管の収縮を抑制するのではないかと考えました。
松やにの成分にもいくつかありますが、どの成分が有効か特定できたのでしょうか。
ピマル酸です。ピマル酸がイオンチャネルに作用して肺血管を弛緩させることがわかりました。アビエチン酸には、肺血管の弛緩作用はありませんでした。
それも創薬につながるのですか。
PAHの原因となる肺血管の収縮を抑制するシード化合物ができたことは1つの成果だと考えています。ただもともと想定していたイオンチャネルへの作用は弱く、一般的な高血圧症の薬と同程度のものでした。残念ながら、すぐに創薬につながるというものではなさそうです。こうした発見を積み重ねることで、いつか大きな成果が生まれると信じています。
(奥様に)イリノイ大学シカゴ校への留学はいかがでしたか。
彩さん 楽しかったですね。留学する前に出産していたので、子連れでしたが、大学のすぐそばに保育園とか小学校が全部あり、ベビーシッターもすぐに見つかったので、子育てしながらでも研究が続けられました。
プランは先生で、実行は奥様ということでしたが、先生から見て奥様は研究のパートナーとしていかがですか。
彼女は博士号も取っていますから、僕がいちいち指示しなくても自分で考えて、実行して、結果を出してくれるので、とてもありがたいですね。多くの研究は、研究室の学生が行ってくれますが、学生は講義にも出ないといけないし、クラブ活動やアルバイト、就活などもありますから、実験に集中できる期間は意外と少ないんです。だから、妻にはいつも研究面でものすごく助けられています。