One Hour Interview
生体分子と人工分子でつくる 超分子ナノ構造体
池田 将
副作用のない核酸医薬の開発も視野に
細胞とか薬剤以外にも、そのゼリーに入れると役に立ちそうなものはありますか。
分子集合体に限らず、同じような戦略で人工分子にDNA(核酸)を付けることも考えられます。DNAは1本の鎖のような形をしています。それが人工分子と結合すると、ふらふらとほどけて形を取れない状態になることがわかってきました。人工分子との結合を切るとはじめて、折り畳まれるようにデザインすることもできます。折り畳まれていないほどけた状態だと、体に悪さをする酵素に結合することができません。でも人工分子を切り離すと、核酸は再び折り畳まれて、酵素と結合する力を復活させます。悪さをしているといっても人体に必要な酵素なので、その働きをむやみに阻害すると何か問題が生じるかもしれません。そこで、いったん結合できない状態にしておいて、人工分子が外れたときだけ結合できるようにしておくと、そのときだけ酵素の働きを阻害するようにできます。つまり、正常なところでは働かず、異常なところだけで働くような核酸分子をつくることができる可能性があるわけです。
副作用が少ない薬になるかもしれないということですか。
そうです。薬として働く分子の機能がずっとオンになっていると、場合によっては副作用につながるかもしれません。だから機能をスイッチングできる機構が必要になると考えたのです。特定の構造のときにオンになるのであれば、その構造を崩したときにはオフになるはずです。実際、今デザインしている分子は、酸素濃度が低いときにオフからオンになるようにしています。心筋梗塞や脳梗塞のような虚血性の状態になって血の巡りが悪くなった部位があれば、投与した分子がそこでオンになるという仕組みです。
この研究で難しかった点は?
必ず狙いどおりに分子が働いてくれるわけではありません。ほどけた構造になるとも繊維状になるとも限りません。そこは分子をつくって試してみて、デザインを少し変えてというトライ&エラーを繰り返しました。