One Hour Interview
新しい機能性を持つ次元制御型集合体の開発にチャレンジ
羽毛田洋平
電荷種分離配置型集合体と電荷積層型集合体
では改めて、今の研究についてお話しいただけますか。
現在は、立命館大学前田研究室に所属し、新しいπ電子系イオンの合成と、それらからなる次元制御型集合体の創製、機能発現が主な研究テーマです。材料の合成から集合体の形成、物性評価まで幅広く行っています。具体的には、新しいイオンを設計・合成し、それらの集合体における特徴的な配列に依存した機能の発現を研究しています。たとえば、塩化ナトリウムの結晶構造では、プラスとマイナスのイオンが規則的に並んでいます。一方、人工的に合成した有機イオンでは、化学合成による修飾を加えることで、液体やゲルをはじめとしたさまざまな形態へと変化します。例として、イオン液体は工業的にもさまざまなところで使われています。私たちは特にπ電子系からなる新しいイオンを設計・合成し、それらの基礎物性を明らかにし、適切な条件下で集合体をつくることで、たとえば、電気伝導性や強誘電性といった機能を発現させることに挑戦しています。
イオンをつくって、その並び方を変える、ということですか。
そうですね。平面状π電子系のアニオンやカチオンは静電的な相互作用のはたらきで交互に積層しやすく、規則的に並びます。このような異なる電荷種が交互に並んだ構造を電荷積層型集合体と呼びます。一方、アニオンとカチオンがそれぞれ分離して配列した構造の形成も可能で、私たちはこれを電荷種分離配置型集合体と呼んでいます。すなわち、静電的相互作用を基本として、適切な分子間相互作用を組み込むことで、電荷種の並びを制御することができます。こうした電荷種の配置が明確で、秩序的な構造からなる液晶・ゲルをはじめとした次元制御型集合体の報告例は世界的に見ても多くはありません。
それを材料として使うと何ができるのですか。
たとえば、π電子系イオンからなる電荷種分離配置型集合体の場合、アニオンの配列では正孔が流れやすく、カチオンの配列では電子が流れやすいという性質を示すことが予想されています。一般的な電荷的に中性の分子では、正孔と電子の両方を効率的に流すのは難しいとされますが、電荷種分離配置型集合体のようにアニオンとカチオンが共存し、かつそれぞれ分離して秩序的に集合化することで、正孔と電子の輸送をひとつの材料で同時に発現する両極性型半導体材料として機能することが期待されます。こうしたイオンペア集合体の構成ユニットの構造に特有の性質を利用した機能の発現例はこれまでほとんどありませんでした。