One Hour Interview
フルオラスケミストリーで新しい反応法・新材料の開発を実現
松原 浩
二次電池に有望な材料も開発
もうひとつの方向性である新しい材料の開発では、どういう研究をされているのでしょうか。
ベンゾキノンという化合物にフッ素のたくさんついたアルキル基を合成すると、フッ素は電子を引きつける性質があるので、ベンゾキノンが電子不足の状態になります。それに応じていろいろな性質が出てくるので、最初はそれを太陽電池の材料として生かそうと考えました。
しかし残念ながらこれはあまりいい結果が得られませんでした。ただ、相手から電子を奪う力の強い化合物はできていましたので、太陽電池材料以外の用途を考えてみました。研究の過程でこの化合物がケイ素と酸素の結合を選択的に切る機能があることも見つけていたので、今度は二次電池の材料に使えないかと考えました。
ちょうどそのとき、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業の研究開発プロジェクトとして、二次電池のプロジェクトがあったので、そのヘッドとして私も参加しました。そのプロジェクトは約3年前に終了しましたが、一定の成果を上げ、二次電池については今も研究を継続しています。
二次電池というと、リチウムイオン電池がよく知られていますね。
そうですね。ただリチウムイオン電池は正極にコバルトを使用しているため、資源や環境の問題がつきまといます。そこで正極に有機物が使えないかという発想で、ベンゾキノンを使った化合物で実際に二次電池をつくり、充放電できることを実験で確認しました。単位重量当たりの出力はリチウムイオン電池より大きいことも確認できています。フルオラス性を利用すると、材料の回収も容易にできます。
性能的に優れているので、将来、リチウムイオン電池にとって代わる可能性もあると思います。経済産業省のプロジェクトのときも、いくつかの会社が興味を示しました。「うまくいったら教えてね」という程度での話でしたが(笑)。ただ、いろいろうまくいかないこともあって。一番の課題は、有機物が電解液に溶けてしまうということです。