ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

有機合成で新しい特性を持った磁石の開発に挑む

細越裕子

世界で初めて有機フェリ磁性体を合成

後半の研究ではどういうことを?

 フェルダジルラジカルのπ共役系をさまざまに変化させながら、多次元的な磁気格子を構築します。有機磁性体の研究は1960年代から行われてきましたが、狙った磁性を発現させる分子設計という観点からの系統的な研究はこれまであまり行われていませんでした。今回、私たちが扱っているπ共役系が拡張されたフェルダジルラジカルは結晶性がよくないとされていましたが、精製して純粋なものをつくれば結晶性がよいと分かってきました。π共役系にいろいろな置換基を入れて、その分子配列との対応を調べることで、磁性体設計を可能にしようとしています。強磁性相互作用だけではなく反強磁性相互作用を利用した分子設計も行っています。実用磁石はすべて安定な反強磁性相互作用を利用したフェリ磁性体です。これは大きさの異なる2種類のスピンを反平行に整列させることで、差分の磁化を生じさせるものです。

有機フェリ磁性体の合成に成功したのは、先生が世界で初めてだそうですね。

 府立大に来る前の2001年のことですね。それまで有機化合物の磁石は同じ大きさのスピンの向きを平行に揃える単純強磁性体のみで、フェリ磁性体はありませんでした。3つのラジカルを化学結合でつないで、分子内に大きさの異なる2種類のスピンをつくりました。この2種類のスピンの間に反強磁性的な相互作用をつくることで、フェリ磁性体の合成に初めて成功しました。ただ磁気転位温度が0.28ケルビンととても低かったんです。嵩高い置換基を含んでいたために分子間の磁気相互作用が弱かったためです。あまりに低温での現象であるために、詳しい性質をまだ調べ切れていないところがあり、今回扱っているπ共役系を拡張した系を使ってフェリ磁性体をつくりたいという気持ちがあります。

先ほど、合成の手順のお話をされましたが、合成のうまい下手で男女の違いはありますか。

 それはないですよ(苦笑)。むしろ個人の性格が大きいと思います。この学科の女子学生は1割程度と少ないので、研究室に在籍した女子学生は数えるほどですけど。私が学生だった20年くらい前と比べて、女子学生比率は微増という感じでしょうか。生物系はともかく、物理系や化学系はまだまだ少ないようです。文部科学省の「女性研究者支援モデル育成」事業によって多くの大学で女性研究者支援が行われて、大阪府立大学でも学内保育所ができたり、私が府大に赴任した10年前と比べると、環境はよくなってきていると思います。若手の女性教員も増えつつありますし、女子学生のネットワークづくりや中高生への裾野拡大も行っています。

 裾野拡大については、関西近郊の大学と協力して、「女子中高生のための関西科学塾」も行っています。これは9年前から文部科学省、科学技術振興機構の実施事業である「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」の支援を受けて運営実施しているもので、大阪府立大学も5年前に加わって、今年度は府大が関西科学塾の幹事校で、私が実行委員長をしています。

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