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伝説のテクノロジー

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肥松の工芸品

伝統工芸士・有岡良員さん

肥松のストックはあと2年

 有岡さんは、茶器や食器、酒器、盆などさまざまな工芸品をつくっている。肥松だけでなく、栗の木や栃の木などを使ったものもあるが、それらは漆などの塗装を施しているものが多い。

 肥松の場合、松やにが多く漆などを塗っても剥離してしまうため、仕上がりにはオリーブオイルを塗るだけだ。だから、肥松の工芸品はどれも木目が鮮やかに浮き出ている。

 「木の器の扱いは難しいものではありません。もともと自然なものなので安全ですし、落としてもめったなことでは割れません。肥松の場合だったら、使った後、さっと水洗いして、あとは日の当たらない風通しのいいところに置いて乾かせばいいだけです。最初のうちは、できれば毎日のように乾拭きするといい。そうすると、目幅の狭い秋目のやにが目幅の広い春目に入り込み、全体に色つやがよくなっていきます。肥松の品は、磨きで光沢が変わり、時間とともに色が濃くなっていきます。使う人が、使うことで完成させるのです」

写真のように、小皿を光にかざすと透ける(右側、上から3番目の器)

 クラフト・アリオカは店舗を兼ねた工房だが、交通の便がよくないため、ここまで商品を買いに来る人は少ない。有岡さんのつくった工芸品を扱っているオンラインショップもあるが、有岡さん自身が重視している販路は百貨店の展示会だ。展示会ではたいてい、実演も行う。以前、髙島屋で展示会を行ったときは、消防署から注意されるほど大勢の客が押し寄せたという。

 また以前、有岡さんのことがテレビで紹介されたときは注文が殺到し、同じ茶托を1日に何百個もつくったことがあった。だが、今は、たとえつくりたくてもそう多くはつくれない。樹齢数百年の肥松の木が、ほとんど入手できなくなっているからだ。たとえあったとしても、貴重な黒松だから切ることが許されない。今、有岡さんの工房にストックしてある肥松は、良益さんの時代に買ったものだ。

 「本気でつくれば、肥松のストックはあと2年くらいしか持たないでしょう。栗の木なども最近は値段が上がって、おいそれとは買えない状態です」

 今、クラフト・アリオカには有岡さん以外には高齢の職人が1人いるだけ。漆芸を学ぶために週に1回、工房に通っている若い人がいるが、現状、有岡さんの後継者はいない。

 材料の肥松は手に入らず、後継者が育っていない。良益さんが復活させ、有岡さんが継承した肥松の工芸品は、失われたテクノロジーになりつつある。しかし、有岡さんの手による美しい肥松の工芸品は、世代を超え、日々の生活の中で人々に長く愛されていくだろう。

有岡良員[ありおか・よしかず](右。左から、山田泰敬さん、妻のかおりさん) 1955年、香川県生まれ。大阪芸術大学で陶芸を専攻した後、高校教員となったが、27歳のときに父親が興したクラフト・アリオカに入り、本格的に木工品づくりを始めた。2001年、香川漆器の伝統工芸士に認定される。雅号は有岡成員。つくるのは茶器や食器が多いが、キーホルダーや時計の文字盤などを手がけることもある。

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