ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

樹齢数百年の松が醸し出す、深みある光沢

父が復活させた技術を受け継ぎ、
松やにをたっぷり蓄えた肥松(こえまつ)で工芸品をつくる有岡良員さん。
数百年の時を経た松による工芸品は深みのある光沢をたたえ、
歳月とともにその色を変えていく。

伝統工芸士・有岡良員さん

数百年の時が育てた松やに

 香川県のJR高松駅から車で20分ほど。周囲に畑や田んぼが広がる住宅街の一角に、クラフト・アリオカの工房がある。ここで、有岡良員さんは肥松を使った工芸品の制作に勤しんでいる。

 肥松とは、樹齢数百年に及ぶ松の中心部で、特に松やにが多く含まれている部分を指す。関東では老松、関西では脂松といわれ、肥松は瀬戸内地方独自の呼び方だ。瀬戸内地方ではその気候風土により、やにを含んで赤みを帯びた美しい木目の肥松が育まれてきた。香川の肥松はもっぱら黒松だという。

 「樹齢300年を超えないと松やにの量が足りないので、細い木は使えないのです。うちで使っていた肥松には、樹齢が600年近いものもありました」

 香川県の伝統工芸士に認定されている有岡さんはいう。

 有岡さんの父、良益さんが肥松を使って工芸品をつくるようになったのは、戦後すぐのこと。それまで良益さんは木地師として、漆芸家・磯井如真さんの下で漆を塗る前の木地を制作していた。しかし、良益さんの技量を評価した磯井さんに勧められ、江戸時代から続いていたもののなくなりかけていた肥松木工の復活を手がけることになった。

 有岡さんは子どもの頃から父親の仕事を手伝っていたが、家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は高校の教員をしていた。しかし家庭の事情で27歳のとき、肥松の工芸品づくりを始めた。

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