伝説のテクノロジー
肥松の工芸品
伝統工芸士・有岡良員さん
独自の道具類が美しさを生む
有岡さんの制作を支えているのが、独自の道具類だ。陶芸などで一般的に使われるろくろは地面に対して水平に回転させるが、有岡さんが使うろくろは地面に対して垂直に回転させる、讃岐式、香川式と呼ばれる独特なものだ。昔は水車を動力にしていたが、今は電気モーターで動かす。
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「松には春目(春から夏にかけて成長が旺盛な部分)、秋目があるので彫刻にはむかない」と有岡さん。削る際に出る木くずは湿っているような感触で、松の香りが漂う
1台のろくろには回転ギアが3つあり、ベルトをどのギアにかけるかでろくろの回転速度が変わる。有岡さんはろくろを回しながら、さりげなくベルトをかけ替える。その都度、ろくろを止めたりはしない。修練を感じさせる光景だ。このろくろ、今はクラフト・アリオカにしかない。つくるメーカーも修理できる業者もいないので、有岡さんは「だましだまし使っている」と苦笑する。
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有岡さんが使うカンナも、通常のカンナとは異なり、大きなノミのような形をしている。こうした道具類は、自分たちでつくることも多い。有岡さんが「木さげ」と呼ぶ工具は、もともと父親の良益さんが考案したもの。松などの針葉樹は固い部分と柔らかい部分が不規則にあり、切れ味の鈍い刃物で削ると面が波打ってしまう。それを防ぐため、良益さんは鉄を切断するために使われるスウェーデン鋼ののこぎりを改造し、オリジナルの木さげをつくり上げた。
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「この木さげを使うことで、きれいな鏡面仕上げができるようになりました」と、有岡さんの制作に欠かせないものになっている。