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伝説のテクノロジー

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肥松の工芸品

伝統工芸士・有岡良員さん

長期の乾燥で木のクセを抜く

 木を使った工芸品ではろくろを使った成形もカンナによる仕上げも重要だが、肥松で大きな意味を持つのは、そうした作業に入る前の乾燥だ。

松の木は寝かせると固くなり、木のクセが強くなる。寝かさないと反ったり、逆目になったりするのでクセを出しきるために木を寝かせる

 木は、切った後も生きている。どんな種類の木でも加工するときには一定期間乾燥させるが、肥松の場合、その期間は少なくとも20~30年。中には50年くらい寝かせて、ようやく使えるようになる場合もある。温度や湿度が急に変わったりすると、肥松の内部にある松やにが蜂蜜のようににじみ出てくることがある。十分に乾燥させないと、購入後に松やにが出てきてしまうようなことになりかねない。

 乾燥は、自然乾燥が基本だ。「電気やガスを使った強制乾燥も可能かもしれませんが、それでも乾燥に5年はかかるでしょうから、エネルギー代がとんでもない額になってしまいますね」と有岡さんは話す。

 自然乾燥で数十年寝かせても、松やにが全部抜けきるわけではない。ある程度の松やには内部に残るのだ。そのため、肥松の工芸品は手触りがしっとりし、時間とともに色が濃くなっていく。日にかざすと松やにの多い部分が妖しいきらめきを放つのも大きな特徴だ。

 「肥松はクセの強い木です。切って板状にしてからもクセが出て、歪んだり曲がったりします。だから長期間寝かせて、クセを全部出させるのです。工芸品にしてからクセが出て、歪んだりしたら困るでしょう」

 クセの強い肥松は、木目が急に順目から逆目に変わっていることもある。逆目にはカンナをかけることができない。しかも松やにがたっぷり含まれているから、加工はことのほか難しい。

「ろくろを回してカンナで削ると、普通の木なら木くずがフワーッと飛んでいきます。しかし肥松の場合、松やにが多いため木くずがしっとりしていて重く、フワーッと飛ばず体にまとわりつき、作業を終えるとまるで雪男のようになってしまいます。しかも松やには温度が低いと固くなるため、カンナなどの刃は頻繁に研がなくてはなりません」

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