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伝説のテクノロジー

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萬古焼(ばんこやき)

作陶家・堀野証嗣さん

土を10年以上寝かせることも

 釉薬をかけるとき、堀野さんは柄杓を使う。作陶家の中には、素焼きした焼き物を釉薬にそのまま浸け込む人も多い。そのほうが手間がかからないし、確実に全体に釉薬を塗ることができる。しかし、堀野さんは柄杓にこだわる。

 「柄杓でかけると、釉薬が厚く付くところ、薄く付くところといった違いが出ます。そのことで焼き物に動きが生まれ、面白い景色が表れます」

 登り窯の燃料には、赤松の薪を使う。赤松は火力が強く、炎が遠くまで伸びるので窯全体が高温になるが、場所によって温度差が出る。堀野さんは一つひとつの作品を登り窯のどこに置くか考え、それによって釉薬の厚さや、釉薬そのものを変えている。いつも松葉釉を使うわけではなく、松の木を燃やして灰にした松木灰の釉薬を使うこともある。もちろんそうした工夫をしても、予想外の仕上がりになることは珍しくない。堀野さんはそれも楽しんでいる。

 作陶に使う土も、堀野さんは自分でつくっている。白い土と赤土の両方を掘り出してくると、まず筵(むしろ)の上で天日干しをする。そして叩き潰すようにして粒度を細かくしてから水を張った甕に入れ、2日ほど置いてから攪拌し、上澄みのほうからすくって濾していく。それを寝かせるのだが、中には10年以上寝かせている土もあるという。

土を粗もみしたのち体重をかけて菊ねりして空気を抜く

 「寝かせた土は、ろくろを引いたときに自分の体に合うというか、伸びがよくて造形しやすくなるんです。いくつかの土を混ぜて使いますが、その配合はつくるものによって変えています。軟らかい土と硬い土が混ざっているので、最初は硬さを均等にするために粗もみし、中の空気を抜くためさらにもみ込みます。この工程はもみ込んだ土に菊の花のような模様がつくので、菊もみと呼ばれています」

 土をもむ作業は相当な力仕事のように見えるが、堀野さんいわく「体重をかければいいので力はそれほど必要としない」のだそうだ。

ろくろを引いて成型

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