ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

鏨(たがね)で打ち出す至高の技

寺社の宝物や仏具などを中心に
彫金の仕事をする小林正雄さん、浩之さん親子。
至高の技術が親から子へと伝えられ、
今日もまた名品が生み出されていく。

彫金師・小林正雄さん、浩之さん

現代の名工

「柄香炉」、手炉ともいう。仏前での香供養、礼拝に用いる道具で、彫られている模様は、伝統的な蓮と雲の模様を用いアレンジしたもの。

 三重県にある伊勢神宮では20年に一度、式年遷宮を行う。社殿と神宝などをすべて新調する一大イベントである。

 この遷宮のときに彫金の仕事を依頼される彫金師の一人が、小林彫金工芸の小林正雄さんである。この道一筋60年。2014年には厚生労働大臣から「現代の名工」として表彰され、2018年には黄綬褒章を受章した当代きっての彫金師だ。中尊寺金色堂須弥壇(しゅみだん)を飾る「黄金の孔雀」の超細密な紋様を見事に再現したこともある。

 小林彫金工芸にはもう一人、彫金師がいる。正雄さんの長男の浩之さんだ。浩之さんも正雄さんの下で伊勢神宮の遷宮の仕事をする。2014年には滋賀県が優秀な若年技能者に贈る「おうみ若者マイスター」に認定されている。

 小林彫金工芸は1873(明治6)年、正雄さんの祖父の與三郎(よさぶろう)さんが創業した。正雄さんの父、道三(みちぞう)さんが2代目を継ぎ、正雄さんは3代目である。ただ、與三郎さんと道三さんは錺(かざり)師であった。正雄さんは道三さんから錺の基礎を学んだ後、京都に出て彫金の技も身に付けた。

 「地金の板を切ったりして成形するのが錺師で、成形されたものに紋様や字などを彫るのが彫金師。うちの初代と2代目は錺師で、私は錺師としては3代目ですが、彫金師としては初代になります。本来、錺師は彫金のことも知り、彫金師は錺のことも知らなければいけないのですが、京都で錺と彫金が分業されてからは、お互いがおろそかになってしまいました」

 そう語る正雄さんによれば、現在、彫金師は全国的に見ても、非常に数が少ないそうだ。わずかな人数の彫金師のうち、浩之さんも含めれば2人が小林彫金工芸にいることになる。

左から、「現代の名工」に選ばれた彫金師の小林正雄さん、彫金の作業を支える妻の笑子さん、そして2代目の息子、浩之さん。笑子さんの笑顔は、鏨の音が響き張り詰めた作業場を優しく包んでいく。

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