伝説のテクノロジー
南部鉄器
及源鋳造 代表取締役・及川久仁子さん
不屈の南部鉄器魂
特許も取得したこの技術を盛岡市で発表したとき、会場からは思わずこんな声が漏れた。
「900年の長い歴史を持つ南部鉄器が、まだ進化できるとは……」
今、この技術を用いた鍋を「ネイキッドフィニッシュ」と呼び開発やプロモーションをしている。及源鋳造の製品は1970年代から欧米や豪州などに輸出され、高い評価を得てきた。海外で開かれるメッセなどにも早くから出展してきた実績がある。「ネイキッドフィニッシュ」も、海外を意識してつけられたネーミングだ。
2011年3月11日、東日本大震災は及源鋳造にも大きな被害をもたらした。その瞬間、及川久仁子さんは「現実だろうか」と思ったという。しかし行政や銀行などの支援もあり、及川さんたちは再び立ち上がった。そして2年後の2013年、及源鋳造は世界的に知られるプロダクトデザイナーのジャスパー・モリソン氏とコラボして、それまでの南部鉄器にはなかった画期的なデザインの鉄瓶や鍋などを「パルマ」シリーズとして発表した。あの大震災も、160有余年の長きにわたり積み重ねてきた伝統と革新の歴史を、押しつぶすことはできなかったのである。及源鋳造にとってはむしろ、飽くことなき挑戦への意欲をかき立てるバネにさえなったのかもしれない。
穏やかではあるが、しかし内に秘めた強い不屈の東北魂が、ここにもしっかり息づいている。
笑顔の及川久仁子さんを中央に、工場で働く皆さん。
おいかわ・くにこ 1960年、岩手県生まれ。武蔵野美術大学短期大学卒業。デザイン研究所に勤務した後、1984年に及源鋳造入社。現場で型づくりからスタート。2007年、代表取締役社長に就任。「鋳肌にこだわるところが工芸品として大事なところ」というのが持論。出来上がった製品も不良と判断されるとまた電気炉に入れられて溶かされる。地域の魅力を発信するためフリーペーパーも発行している。
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