伝説のテクノロジー
南部鉄器
及源鋳造 代表取締役・及川久仁子さん
技術で際立つ
もう1つ重要なのが、砂型に流し込んだ鉄が流れる湯道をどう設計するかだ。複雑な形状のものや大きなものの場合、湯道が1本しかないと、一番奥まで鉄がたどり着くのに時間がかかってしまう。そうすると鉄の温度がだんだん低くなり、極端な場合は奥にたどり着く前に固まってしまう可能性もある。もちろん湯道の数を多くすればいいという単純なものでもない。いかに効率よく鉄が流れるようにするかがカギとなる。そのため同社には湯道の設計専門の職人がいる。
「ここはノウハウ中のノウハウ。これ以上はお話しできません」と及川さんは口をつぐむ。どうやら門外不出の“秘伝の技”があるようだ。
鉄は錆びやすい。しかし南部鉄瓶は錆びにくいのも特徴だ。それは鋳造した後の鉄瓶を高温の窯で焼いて、錆びにくい状態にしてさらに漆を塗っているからだ。及源鋳造は、鉄瓶に今もこの伝統技法を用いている。しかし一般に南部鉄器と呼ばれている鍋たちは窯焼きをせず、鋳造した後で、南部鉄器用に開発された特殊な塗料を塗っている。だからきちんとメンテナンスしていれば、使い続けても簡単に錆びることはない。
「鍋にも窯焼きの技法が使えないか」
あるとき、及源鋳造の専務である及川秀春さんはそう考えた。日中は専務としての仕事をしなければならないため、終業後や休日を使って秀春さんは実験を繰り返した。そうしてようやく完成させたのが、「ネイキッドフィニッシュ」の技術である。鋳造した鉄をもう一度、900℃の高温で焼くと表面に酸化被膜が形成され、錆びにくくなることを綿密なデータで実証したのだ。
一般的な南部鉄器とは異なる表情の新しい鉄器が誕生した。