伝説のテクノロジー
焼物の実用の美を求めて
やちむんやちゃー 作陶家・松田米司さん
南方系の温かなものを目指す
北窯の登り窯には全部で13の焼成室(袋という)があり、沖縄県内では最大だ。この登り窯をつくるとき松田さんは大型免許を取り、自ら工事に参加した。
「とにかく焼物が好きで、自分たちの窯を持ちたいという一心でした。資金もコネもありませんでしたから、できるところは自分たちでやるしかない。私はユンボも運転しましたよ」
そういって優しげな笑みを浮かべる松田さんは、自分のことを「素人」だと言う。
「何百年と続いている窯元の職人とは違い、私たちは自分が好きで始めただけ。自分の個性を表現する作品をつくるのではなく、使いやすい実用の器を伝統的な方法でつくるのが目的です。伝統的な琉球焼物をつくるのが私の仕事。伝統的な焼物に近づけば近づくほど、地元の人間としての生活ぶりがそこに出ます。それは私の個性ではなく、琉球人としての個性であり、それがやちむんの魅力でもあるのです」
もちろん作陶家としての個性がないわけではない。松田さん自身、双子の弟の共司さんがつくるものは「私がつくるものよりずっとダイナミックだ」と評する。では、松田さんのつくるものの特徴はどこにあるのか。
「人からは、柔らかい感じがするとよく言われます。もともと沖縄の焼物は優しい感じがしますし、それに向かって仕事をしているからなのでしょう。自分でもシャープなものより、南方系の温かなものをつくりたいといつも考えています」
ひょうひょうと語る松田さんだが、実は勉強家としても知られる。那覇市にある市立壺屋焼物博物館に松田さんはよく訪れる。それも一般には公開されていない倉庫の収蔵品まで熱心に見ていくのだという。「昔の人がつくったものはすごい」と言う松田さんは、最近は琉球焼物に伝統的に伝わる赤の色を出すことに熱心に取り組んでいる。赤絵は素焼きをした後、絵付けをし、再び低温で焼成するなど手間のかかる作業が必要になるが「何とか昔の赤を出したい」と意気込む。そんな松田さんの作品は海外でも評価され、2013年にはイギリスで個展を開催。2015年からは同国のヴィクトリア&アルバート博物館でも松田さんの作品を収蔵するようになったという。2016年には松田さんの焼物づくりを描いたドキュメンタリー映画「あめつちの日々」も公開された。