ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

松煙墨(しょうえんぼく)を使った独特の藍染技法

藍染職人 小沼雄大さん

蓼藍の栽培にも挑戦

 一方で地元の中学校で定期的に藍染教室を開いたりもしている。「中学校の藍染教室は父がしていたもので、父が亡くなった後、続けてほしいと学校から声をかけていただきました。子どもたちが少しでも藍染に興味を持ってくれればという気持ちでお引き受けしています」

染めの様子や商品の紹介はインスタグラムやフェイスブックでも発信。SNSを通じて遠方から訪れるお客さんもいるという。

 東京にある雑貨店と共同で展示販売会を開いたりもしている。また星野リゾートの界鬼怒川は、全客室に黒羽藍染のベッドライナーなどを設え、ホテル内に黒羽藍染のショップも設けている。黒羽藍染紺屋は大田原市内の店で販売しているだけで卸は一切していないが、唯一の例外が星野リゾート界鬼怒川なのだという。「蓼藍の葉は徳島産のものを仕入れていますが、数年前からは自分でも栽培をしています。葉を乾燥させず、生の状態でミキサーにかけたものでも染めることができます。これからもいろいろ試してみようと思います」

 黒羽藍染を少しでも多くの人に知ってもらいたい。そんな想いが小沼さんを突き動かしているのだろう。だが、黒羽藍染紺屋は、弟子を取らないことが伝統になっている。中学校の藍染教室で興味を持った子が弟子入り志願してきたらどうするかと尋ねても、小沼さんはきっぱり「断ります」と言い切った。小沼さんには2歳の長男がいるが、将来家業を継ぐとは限らない。

「もし長男が継ぎたくないと言ったらどうするのか」

 いささか意地の悪いそんな質問に、小沼さんは、「200年続いた黒羽藍染の歴史を自分の代で途絶えさせたくはない」と言いながらも、結局答えは返ってこなかった。

 まだ30代の若さだから、この答えを出すまでにはまだ猶予がある。伝統を守りながら新しい道を切り開いてきた小沼さんのことだ。きっといつかこの難問にも、明確な答えを見出す日が来ることだろう。

長男と妻の裕美子さん。今は育休中だが縫製を担当。

おぬま・ゆうた 1985年、栃木県生まれ。24歳のときに家業の黒羽藍染紺屋を継いで8代目当主に。今、店の経営は母親の京子さんに任せ「自分はものづくりに専念できている」という。「職人としてはまだまだ」と謙遜するが、京子さんは「もう安心して見ていられる」と目を細める。妻の裕美子さんとの間に一男。趣味は、旅行と写真。

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