伝説のテクノロジー
日本最古の芸能祭典を司る
宮司 花山院弘匡さん
すべて松材でつくられる御仮殿
若宮様がお遷りになるお旅所には、御仮殿が建てられる。御仮殿は皮付きの松の柱に、青松葉で屋根が葺かれるもので、すべて松の木でつくられる。かつては毎年、約1,700本の新しい松材が使われていたが、今は10年くらい同じ松材を使う。若宮様がお入りになるところは清浄でなければならないため、御仮殿は毎年おん祭が終わると解体される。松材はきちんと保管され、翌年のおん祭でまた組み立てられるのである。
ちなみに解体や組み立ては天保元年(1830年)創立の建築会社、尾田組によって行われるのが習わしである。
それにしてもお旅所はなぜ松でつくられるのか。花山院宮司に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「神様が降りてこられるのは基本的に常緑樹です。神道では自然から恵みを得て命をつなぎ、幸せな時間を過ごし、子や孫へ命がつながっていくことを神様が御加護されるのです。常に青々とした葉の緑は、神様が自然の中で力を発揮している御様子なのです。ですから春日の山は平安時代から伐採が禁止されてきました。平安時代からの都市に原生林が残っているというのは世界的に希有なことです。春日大社の御神木は榊や杉ですが、門松のように松もまた神様の大変お好みの依代です。松は、神降ろしを待つという意味にも通じています。
春日大明神が特別にお好みの松があります。それが一之鳥居をくぐってすぐの参道右側にあるのが影向(ようこう)の松です」
おん祭では午後からお渡り式が行われる。御仮殿の若宮様のもとへ神事芸能の集団など祭礼に加わる総勢千余名が列をなしてお参りへ向かうのがお渡り式である。現在は奈良県庁前を出発し、近鉄奈良駅やJR奈良駅前を経てお旅所前まで行くコースをたどる。松です」