伝説のテクノロジー
アカマツでつくる経木(きょうぎ)の不思議なパワー
経木製作職人 阿部初雄さん
毎朝7時から作業開始
製材するとき、節のある部分はできるだけ避けるようにしている。それでも取りきれなかった節に当たると、刃こぼれを起こす。そのため阿部さんたちは、30分から40分くらいに1回の頻度で刃を研磨する。
「均一に薄く削るのは難しい。息子はきちんと厚さを測りながら削っています。今は息子の方が私よりうまいんじゃないですか」
阿部さんはうれしそうな顔をしながらそう言う。
削りたての経木を触ってみると、驚くほどしっとりしている。もともと生木を削っているので、水分をたっぷり含んでいるためだ。これを遠心分離型の脱水機にかけたあと、さらに室内で3~4日、自然乾燥させる。そのあと、重しを置いてまっすぐに伸ばし、端の部分を切ってきれいに揃えたりして仕上げ、50枚ごとに結束していく。そうした仕上げ作業は、阿部さんの妻やパートの主婦数人が行っている。
つくった経木は、群馬県内の納豆メーカーや問屋に販売している。問屋はそれを鮮魚店や精肉店などに卸している。同業者が次々に姿を消していったため、阿部経木店に注文が集まり、ここ数年は忙しい日々が続いている。3年くらい前からはさらに注文が増えた。人々の環境意識が高まるとともに、アカマツの抗菌作用などが見直され、ネット通販などで経木を買う人が増えてきているためだ。今、阿部さんたちが作業を始めるのは毎朝7時。そうしないと注文をさばききれないのだ。
「サンマなどの水揚げが多くなる秋口から年末にかけては鮮魚の包装資材としての需要が拡大し、とくに忙しくなります。でも二人でつくれる量は限られています。注文に間に合わず待たせてしまうと、プラスチックの包装資材などにお客さんが流れてしまいます。プラスチックの方が安いので、一度流れたお客さんはなかなか戻ってきません。利益を確保するため、もう少し単価を上げられないかといつも考えています」