伝説のテクノロジー
アカマツでつくる経木(きょうぎ)の不思議なパワー
経木製作職人 阿部初雄さん
1分間に90枚の経木を製造
かつて群馬県は経木で日本一の生産量を誇り、県内には40~50軒の経木店があった。納豆やおにぎりなどの食品包装資材や鮮魚店の値札、食器代わりなどに、経木は広く使われていた。適度に水分を吸い、通気性もあるので、肉や魚の鮮度を保つには経木が最適ともされていた。だが、1960年代以降、経木の需要は急速に低下していく。ラップや発泡スチロールなど、プラスチックの包装資材が台頭したためだ。
そのあおりを受け、群馬県では次第に廃業する経木店が増えていった。阿部経木店は祖父の代から続いていたが、先行きの見通しがつきにくく、父親から「この仕事は時代遅れだ」と言われた阿部さんは、皮肉なことにプラスチック包装資材の会社に就職したのだった。
ところが20年ほど前、家庭の事情などもあり、阿部さんは家業を継ぐことを決意した。7年前には、阿部さんの次男の晋也さん(次頁写真右)も、別の仕事から経木づくりに転じてきた。
「父から継いで欲しいと言われたわけではありません。ただ将来のことを考えたとき、今や県内に5軒くらいしか残っていない経木づくりは貴重な仕事だと思い、自分が残していけるのであればという気持ちでやることにしました」
晋也さんはそう語る。
阿部さんが使っている「自動式経木機」は1958(昭和33)年に発売されたもの。開発した阿部儀秋というのは、阿部さんの遠縁にあたる人だという。今、この機械をつくっている工場はどこにもない。メンテナンスも自分たちでするしかない。阿部さんは、廃業や倒産した同業者から機械を譲り受け、部品の交換が必要になったときに利用するようにしている。
「今の機械は、1分間に90枚弱の経木をつくり出すことができます。うちの場合、経木の厚さは0.16~0.18ミリメートルくらいですが、刃の調整で厚さを変えることができます。刃の調整は手でしますし、メーターなどは何も付いていません。でも、もし今、特注で同じような機械をつくったとしても、1分間に90枚削るのは難しいかもしれませんね」
と阿部さんは語る。