ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

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黒松の美を輝かせる精緻な技巧

指物師 下田脂松細工職人・ 嶋﨑繁明さん

「私の代で終わるかもしれない」

嶋﨑さんの父上、二代目・嶋﨑敏夫氏の仕事と信条が書かれたプレート。

 嶋﨑さんは今年、東京のサラリーマンから魚籠(びく)をつくって欲しいと頼まれた。祖父の秋吉さんが生前手に入れながら、もったいなくて使えなかった御蔵島の最高の桑を使い、嶋﨑さんは全身全霊をかけてつくり上げた。細かいところまで神経の行き届いたその魚籠は、驚嘆するほど美しく、細部まで徹底してつくり込まれている。

 「そのお客さんは、『こういうものをつくって欲しい』と、似たものを持ってきたんです。

でも、それと同じものをつくったのでは、指物師として面白くないじゃないですか。どういうものをつくろうかあれこれ考え、眠れないときもありましたよ」

注文を受けてつくった魚籠。寸分のズレもなく、仕切り箱が魚籠本体に吸い込まれる。

 うれしそうに話す嶋﨑さんは、しかしそのあと、ぽつりとつぶやいた。

 「下田脂松細工も、私の代で終わりかな……」

 透明感のある美しい木目、見る角度で変わる色、細部まで手の込んだ丁寧なつくり、そして木のぬくもり。嶋﨑さんの工房には、自分だけでは使いきれないほどの量の板どりした黒松が眠っている。にもかかわらず、下田脂松細工の素晴らしい品々がもう見られなくなってしまうとしたら、あまりにも惜しい気がするのだが。

見た目も可愛らしい六角の小抽出。アクセサリーなどを入れてもよさそうだ。

しまざき しげあき 1949年、静岡県下田市生まれ。高校卒業後、父親の嶋﨑敏夫さんに師事して指物師としての腕を磨く。1999年、静岡県で第50回全国植樹祭が開かれたときには天皇皇后両陛下への献上品を製作した。2000年、静岡県優秀技能者表彰を受ける。鉋などの道具も自分でつくっている。

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