伝説のテクノロジー
黒松の美を輝かせる精緻な技巧
指物師 下田脂松細工職人・ 嶋﨑繁明さん
失敗を重ねることが大事
1980年に、黒松を使った指物細工が県から郷土工芸品に指定され、下田脂松細工という名称が正式につけられた。
それ以降、嶋﨑さんは展示会などにも出展するようになり、松を使った品の注文が増えて「松専門のような形になりました」と言う。
1999年、静岡県で全国植樹祭が開かれたとき、嶋﨑さんは天皇皇后両陛下に献上する小抽出を製作した。
2003年、国土緑化推進機構によって「森の名手・名人100人」にも選ばれている。
そんな嶋﨑さんも修業を始めた頃は「どこをどう削れば平らになるのかさえ分からなかった」と言う。
「父は厳しい人ではありませんでした。分からないことも聞けば教えてくれました。でも、教わったことはなかなか身に付きません。やはり自分で体験し、失敗を重ねることが大事です。簡単なものでも、きちんとつくれるようになるまでには3~4年かかりました。父と同じようにつくれるようになるまでには20年かかりましたね」
敏夫さんと一緒に仕事をしていた頃は、伝統工芸品を扱う東京の2軒の店から切れ間なく注文が入り、忙しい日々が続いた。下田でも脂松細工を得意にしているのは嶋﨑さん親子だけで、他の指物師が松を使った品の注文を受けると、嶋﨑さんのところに頼みに来たほどだった。ひとつ10万円で販売する硯(すずり)入れを100個つくって欲しいという注文が来たこともあった。