伝説のテクノロジー
黒松の美を輝かせる精緻な技巧
指物師 下田脂松細工職人・ 嶋﨑繁明さん
赤松は女松、黒松は男松
それでも嶋﨑さんは、松にこだわる。それも、赤松ではなく黒松がいいと言う。その理由を嶋﨑さんはこう説明する。
「赤松は女松、黒松は男松と言うように、赤松と黒松では目の強さが違います。脂は赤松にもありますが、黒松は目がはっきりしています。しかも黒松には、他の木にはない明るさ、透明感、派手さがあります。それが黒松の魅力です。特に脂が強い黒松の透明感は際立っています。品物に仕上げてからも脂が出てくるような木もありますが、そういう場合はていねいに拭くと光沢が一層増します」
指物に使う松は、丸太を一定の板に製材した後、4~5年間、日陰で自然乾燥させる。それからある程度の大きさに切ると、木口(こぐち)に紙を貼ったうえでさらに3~4カ月乾燥させる。本格的に形をつくっていくのはそれからだ。
「数カ月乾燥させている間も木は寸法が狂います。木は常に動いているのです。木の難しさはそこにある。その動きをちゃんと見ながら細工をしていかないと、いい仕上がりになりません」
指物は、金物を使わないのが基本。ほぞ溝やほぞ穴にほぞをはめ込んで組み立てていく。溝や穴とほぞの寸法が合わないと、組み立ててもがたついてしまったり、逆に穴にほぞが収まらなかったりする。だから仕上げの段階に近づくほど、細心の注意を払って鉋や鑿(のみ)を使う。
「たとえば抽出(ひきだし)ものは、前面に出る部分が全部きれいな平面に揃っていないと美しくありません。小鉋で、削りかすがほとんど出ないくらい微妙に削りながら調整していきます」