伝説のテクノロジー
1000年の歴史と伝統が支える平成の備前焼
1備前焼作家 伊勢崎 紳さん
ろくろは全部手で挽く
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ろくろに粘土を置き、下から上へと伸ばして厚みを整えてから径と高さを決めていく。
伊勢崎さんが登り窯に火を入れるのは8月の下旬から9月の初旬にかけて。1回に2,000点から2,500点の作品を焼く。これだけの量で8割がたは思い通りに焼けるというのだから、驚嘆せざるを得ない。焼いている間は3交代制で見守り続ける。温度計を見ながら必要に応じて割木を足す。2週間で約100万円分の割木を使い切るという。
焼きの技法とともに土づくりも大事だ。地面から1メートルほど下の土がいいという。だが、備前では鎌倉時代から江戸時代にかけて手で掘れるところはほとんど掘りつくしたので、今は重機を使って地中3メートルくらいまで掘り起こす。
「備前の土でなくてもいいのですが、この近辺の土は鉄の含有率や耐火度がちょうどいい」のだと言う。
掘り出した土はまず砂や石を取り除き、乾燥させてからふるいにかけ、さらに泥水にして砂を分ける。そのうえで山土と黒土を混ぜて粘土にしていく。そうしてできあがった土をろくろで挽いて形をつくっていくのである。
「コテなどの道具を使わず、全部手で挽くのが備前流。ある程度以上に大きなものは手に布や革を巻き、圧力をかけながら挽く。それが昔ながらの備前の挽き方です」
デザインを考えるときにはスケッチを描く。
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その後器の下を削り形を整え、乾燥させる。
「相手を引き立たせるところが備前焼の魅力。花を活ければ花が一層美しく見えますし、料理を盛れば一層美味しそうに見えます。どんなものをつくろうかとか、もっとこうしたらいいとか考えているときが一番楽しいですね」
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器の表情を決める炎の元になる松は松やにをたっぷり含んでいる、テレテル(肥えてる松の意味)がいいという。