伝説のテクノロジー
国産の材料にこだわり名器をつくる信州の巨匠
ヴァイオリン製作者 井筒信一さん
鉋(かんな)で削り、叩いて音を聞き、さらにまた削る
材料だけではない。井筒さんにはつくり方にもこだわりがある。
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「自然の材料はいろんなものの恩恵を受けて育つ。だから良い、悪いと分けたなりに使う」と井筒さん。
一般にはあまり知られていないが、ストラディバリウスなどの「名器」といわれるヴァイオリンには、製作図面が残っていることが多い。トップクラスのヴァイオリン製作者
その図面には板の厚さなどの数字も記されている。ヴァイオリンの音の良し悪しは、板の厚さや微妙なふくらみで決まるといわれる。だから井筒さんも基本的にはその数字に従ってつくる。ただ、計るだけでなく板を指で叩いたときの音も聞いて厚さを調整する。
「木の板は自然の産物ですから、音の響き方などは一つひとつ全部違います。ゲージで計って同じ厚さにしても、木が違えば音も違ってくるはず。だから僕は最後まで数字に頼る方法はとりたくないのです」
鉋で木を削り、叩いてみて音を聞き、さらにまた削る。根気のいる作業だ。
板を張り合わせるときなどには膠(にかわ)を使う。接着剤は使わない。仕上げに塗るニスも、独自の調合をしている。
余談だが、ヴァイオリンほど松に縁の深い楽器は他にないのではないだろうか。材料に松を使うだけでなく、演奏に使う弓には松脂(ロジン)を塗る。馬の尻尾の毛を束ねてつくった弓にロジンを塗ることで、表面をざらざらにするのだ。松がなければこの世の中にヴァイオリンという楽器は存在しなかったかもしれない。
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約30種類の鉋を使って木を削る。職人がつくった鉋を、自分に合うように、カスタマイズする。