伝説のテクノロジー
国産の材料にこだわり名器をつくる信州の巨匠
ヴァイオリン製作者 井筒信一さん
注文さえあればどんどん長生きしそうな気がする
そういう井筒さんも最初のうちは、丸太を見て「これはいい」と思い、買ってから切ってみたらそうでもなかったという経験を何度もした。
「丸太を割っていい材料だと分かると途端に価格が跳ね上がります。だから丸太の状態で見分けることが大事なのです」
あるとき、井筒さんは有名なヴァイオリニスト2人に自作のヴァイオリンを2挺渡して、弾き比べてもらった。片方は長く寝かせた材料、もう片方はそれほど寝かせていない材料でつくったものだった。井筒さん自身は長く寝かせた材料でつくったヴァイオリンの方が、音がいいと感じていた。だが、材料のことはあえて言わずにいた。
するとどうだろう、2人とも「どちらもとてもいい音だが、強いて言えばこちらの方がいい」と言って、長く寝かせた材料のヴァイオリンを指さしたのだった。
「これで自信がつきました」
2カ月に1挺のペースでつくるとして、井筒さんは今、25年分くらいの材料を買い置きしている。
「もう25年くらいはつくり続けたい。苦労して集めた材料ですから、自分で使いたい。注文さえあればどんどん長生きしそうな気がします。僕は殺されたって死にません」
そう言って井筒さんは茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。